バフェットの師匠・グレアムの「シケモク株投資」は日本株でも通用する?16年間のバックテスト結果
ウォーレン・バフェットの師匠として知られる、ベンジャミン・グレアム。
グレアムが実践していた代表的な投資法の一つに、「ネットネット株投資」があります。日本では、吸い殻に残ったわずかな価値を拾うイメージから、俗に「シケモク株投資」と呼ばれることもあります。
では、この古典的なバリュー投資は、現代の日本株でも通用するのでしょうか。
今回は、東証上場銘柄を対象に、2010年1月から2026年5月までの約16年間をバックテストしました。
その結果、初期資金1000万円は最終的に約8600万円まで増加。年率リターンを示すCAGRは、約14.0%となりました。
ただし、細かく分析すると、直近ではTOPIXに負けている期間もあります。単純に「シケモク株を買えば勝てる」と結論づけられる結果ではありません。
ここからは、今回の検証条件と結果を詳しく見ていきます。
そもそも「シケモク株」とは?
シケモク株とは、一般的に「ネットネット株」と呼ばれる、資産価値に対して株価が極端に割安な銘柄のことです。
今回の検証では、グレアムが重視した「NCAV」を利用しました。
NCAVは、次の式で求めます。
NCAV=流動資産-負債合計
流動資産には、現金や預金だけでなく、売掛金、受取手形、棚卸資産なども含まれます。
そして、今回利用したNCAV比率は、次の式で計算します。
NCAV比率=NCAV÷時価総額
たとえばNCAV比率が1.5倍であれば、会社の流動資産からすべての負債を差し引いた金額が、現在の時価総額の1.5倍あるということです。
もちろん、会社を清算すれば必ずその金額が株主に戻ってくるわけではありません。棚卸資産や売掛金を帳簿上の金額どおりに回収できるとは限らないからです。
それでも、株価に対して資産が大幅に多い会社を探す指標として、NCAV比率は非常に分かりやすいものです。
今回のバックテスト条件
今回の主な検証条件は、以下のとおりです。
| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 対象銘柄 | 東証の全上場銘柄 |
| 除外業種 | 銀行・保険などの金融業 |
| 検証期間 | 2010年1月~2026年5月 |
| 初期資金 | 1000万円 |
| スクリーニング | 毎月末の最終営業日 |
| 買付日 | 翌月最初の営業日 |
| 買付価格 | 当日のVWAP |
| エントリー条件 | NCAV比率1.5倍以上 |
| 銘柄数 | NCAV比率が高い順に最大30銘柄 |
| 売買単位 | 100株単位 |
| 基本の利確条件 | 買値から30%上昇 |
| 最大保有期間 | 24カ月 |
| その他の売却条件 | 上場廃止 |
| 流動性条件 | 直近1カ月の平均売買代金1000万円以上 |
| 出来高への参加率 | 1日の出来高の最大5%まで |
| 売買コスト | 買い・売りともに片道0.6% |
金融業を除外しているのは、銀行などでは資産や負債の意味合いが一般企業と大きく異なるためです。
また、買付価格には始値や終値ではなく、VWAPを採用しました。
VWAPとは、その日の取引価格を売買量で加重平均した価格です。出来高の少ない銘柄で、自分に都合のよい価格だけを使ってバックテストすることを避ける狙いがあります。
最大30銘柄をNCAV比率の高い順に購入
条件を満たすシケモク株が多数あった場合は、すべてを購入するのではなく、NCAV比率の高い順に最大30銘柄を購入します。
ただし、今回のテストでは100株単位で購入しています。そのため、全銘柄を完全な均等比率で保有するわけではありません。
株価が高い銘柄ほど投資金額が大きくなり、ポートフォリオ内の比重も高くなる可能性があります。
また、基本条件では、過去の赤字回数や営業キャッシュフローなどは考慮していません。
つまり、NCAV比率が高ければ、長期間赤字が続いている会社や、保有する現金を急速に失っている会社も購入対象になる可能性があります。
この点は、後ほど触れる「良いシケモク株」と「悪いシケモク株」を分けるうえで、重要なポイントになりそうです。
バックテスト結果は年率14.0%
約16年間のバックテスト結果は、次のとおりでした。
総リターン:+759%
CAGR:年率14.0%
1000万円→約8600万円
同じ期間のTOPIXのCAGRは、今回の計算上では約9.5%でした。
つまり、シケモク株戦略はTOPIXを年率で約4.5ポイント上回ったことになります。
年率で4.5ポイントの差は、一見すると小さく感じるかもしれません。しかし、10年、20年と複利で運用すると、その差は非常に大きくなります。
今回の結果だけを見れば、日本株においてもシケモク株投資は有効だったといえます。
下落相場では比較的強い傾向
年ごとのリターンを比較すると、シケモク株戦略には下落相場で比較的強い傾向が見られました。
たとえば2011年や2018年など、TOPIXが大きく下落した年でも、シケモク株戦略の下落幅は比較的限定されていました。
これは、シケモク株がもともと資産価値に対して大幅に割安な水準まで売られていることが関係していると考えられます。
すでに割安な株は、相場全体が下落しても、さらに大きく売られる余地が相対的に小さい可能性があります。
一方で、2013年のような上昇相場ではTOPIXに負けているものの、シケモク株も上昇していました。
つまり、上昇相場の恩恵をある程度受けながら、下落相場では損失を抑えるという、バリュー株らしい値動きが確認できたことになります。
ただし、すべての下落相場に強かったわけではありません。2020年には、シケモク株戦略の下落率がTOPIXを上回る場面もありました。
直近ではTOPIXに負けている
今回の結果で特に気になったのが、2019年以降に投資を始めたケースです。
開始月を1カ月ずつずらし、それぞれ5年間運用した場合の成績を調べたところ、2019年以降に開始したケースでは、シケモク株戦略がTOPIXを下回る傾向が見られました。
また、2024年以降も、TOPIXが上昇する一方で、シケモク株には十分な資金が流れ込んでいません。
近年の日本株市場では、大型株や指数への寄与度が高い銘柄に資金が集中する場面がありました。そのため、小型で流動性の低いシケモク株が取り残された可能性があります。
長期では優秀な成績だったものの、直近の環境では機能しにくくなっている。この点は無視できません。
シケモク株の数自体が減っている
成績悪化の理由として考えられるのが、シケモク株の減少です。
検証期間中の銘柄数を確認すると、NCAV比率1.5倍以上の銘柄は、長期的には減少傾向にありました。
流動性条件を外した場合でも同様に減っているため、単に出来高の少ない銘柄を除外したことだけが原因ではありません。
候補銘柄が減ると、ポートフォリオを十分に分散できなくなります。
それだけでなく、長期間評価されない「質の悪いシケモク株」が、候補の中に残り続ける可能性もあります。
以前は60銘柄のうち、優良なシケモク株が40銘柄、問題のあるシケモク株が20銘柄だったとします。
ところが全体が20銘柄まで減少し、その大部分が長期間放置されている会社だった場合、単純なNCAV比率だけでは良い銘柄を選びにくくなります。
この仮説が正しければ、現在のシケモク株投資では、以前よりも銘柄の「質」を確認する必要がありそうです。
「キャッシュバーン企業」を除外する必要性
グレアムも、NCAV比率が高い会社を無条件ですべて買っていたわけではありません。
特に注意したいのが、赤字によって現金を急速に失っている会社です。
現時点でNCAV比率が高くても、毎年大幅な赤字を出していれば、その資産価値は時間とともに減少します。
購入時に割安だったとしても、2年後には流動資産が大幅に減り、割安とはいえなくなっているかもしれません。
今後の検証では、たとえば次のような条件を追加する余地があります。
- 過去数年間の赤字回数
- 営業キャッシュフローの状況
- 現金・預金の減少率
- 売上高や利益の長期的な傾向
- 有利子負債の増減
単純な資産価値だけでなく、「その資産が今後も残るのか」を確認することが、良いシケモク株を選ぶポイントになりそうです。
コロナショック時の銘柄選びにも課題
コロナショック時には、シケモク株の数とNCAV比率が一時的に上昇しました。
株価の急落によって、それまでシケモク株ではなかった会社までNCAV比率1.5倍以上になったからです。
ここで考えられるのが、「もともとシケモク株だった会社」と「一時的な急落でシケモク株になった会社」の違いです。
もともと何年も割安に放置されている会社は、構造的な問題を抱えている可能性があります。
一方、業績や財務に大きな問題がないにもかかわらず、相場全体の暴落によって一時的にシケモク株になった会社は、株価が回復する可能性があります。
今回の戦略では、NCAV比率の高い順に銘柄を購入しています。しかし暴落時には、単純にNCAV比率が高い会社を選ぶより、「今回の下落で新たにシケモク株になった会社」を選ぶ方が、成績が良かった可能性もあります。
今後は、NCAV比率の高さだけでなく、シケモク株になった経緯も分析する必要がありそうです。
利確ラインは30%が最も良かった
基本条件では、購入価格から30%上昇した時点で利益確定しています。
この利確ラインを50%、100%、150%に変更して比較したところ、利確ラインを高くするほどCAGRは少しずつ低下しました。
今回試した範囲では、30%利確が最も良い結果でした。
ただし、30%と50%の差はわずかです。この結果だけで、「30%が絶対的な正解」とは断定できません。
20%や15%など、さらに低い利確ラインを試す価値もあります。
一方で、利確ラインを下げすぎると、売却後に再び同じ銘柄を買い直すような短期売買が増える可能性があります。売買回数が増えれば、その分だけ手数料やスリッページの影響も大きくなります。
利確ラインは、リターンだけでなく、売買回数や実行可能性も含めて評価する必要があります。
流動性フィルターの効果は大きかった
今回、特に大きな差が出たのが流動性条件です。
基本条件では、直近1カ月の平均売買代金が1000万円以上ある銘柄だけを購入しています。
この条件を外したところ、バックテストの成績は大きく悪化しました。
売買代金が極端に少ない銘柄には、次のような問題があります。
- 買いたい価格で買えない
- 売りたいときに売れない
- 少額の注文でも株価が大きく動く
- 長期間、投資家から注目されない
- 利確条件に到達しても十分な数量を売却できない
つまり、流動性の低さは単に取引しにくいだけでなく、その会社が市場から完全に放置されているサインである可能性もあります。
ただし、「平均売買代金1000万円」という数字が最適だと断定することはできません。
2000万円、5000万円、1億円などに変更すれば、過去のデータ上で最も良い数字を見つけることはできます。しかし、過去の成績が最大になるように条件を調整しすぎると、過剰最適化につながります。
重要なのは、なぜその条件を採用するのかを説明できることです。
実際の売買ではバックテストどおりにならない
バックテストの成績が良くても、そのまま実際の取引で再現できるとは限りません。
今回の条件では、1日の出来高の5%まで購入できることにしています。
しかし、実際の取引では、その日の最終的な出来高を事前に知ることはできません。
また、出来高の少ない銘柄で大量に注文すると、自分の買い注文によって株価が上昇します。売却時にも、自分の売り注文で株価を押し下げる可能性があります。
VWAPで買えたという前提も、注文数量や板の厚さによっては再現できません。
売買コストとして片道0.6%を設定していても、市場への影響を完全に表現できているわけではありません。
特に運用金額が大きくなるほど、流動性の問題は深刻になります。
2010年開始だったことも結果に影響している
今回のバックテストは、2010年1月から始まっています。
2010年はリーマンショック後で、多くの日本株が割安に放置されていた時期です。そのため、シケモク株投資を始めるには有利なタイミングだった可能性があります。
開始月をずらした5年間の検証も行っていますが、16年間の長期成績については、2010年開始という条件の影響が残ります。
より確かな検証を行うには、開始時期を複数に分けたり、期間を区切ったりする必要があります。
たとえば、次のような比較が考えられます。
- 2010年からの10年間
- 2013年からの10年間
- 2016年からの10年間
- 任意の時点から5年間保有するローリングリターン
- 上昇相場・下落相場・横ばい相場ごとの成績
長期の平均リターンだけでなく、「どのような相場で機能するのか」を確認することが重要です。
年率14%の複利効果
年率14%という数字は、長期では非常に大きな威力を持ちます。
仮に毎月5万円を積み立て、年率14%で30年間運用できたとすると、元本は1800万円です。
最終金額は計算方法によって変わりますが、非常に大きな金額になります。
ただし、毎年安定して14%を得られるわけではありません。実際の運用には、税金、売買コスト、スリッページ、運用できない待機資金などもあります。
今回の年率14%は、あくまで一定の条件で行った過去のバックテスト結果です。将来も同じ成績になることを保証するものではありません。
まとめ:シケモク株は今も有効なのか
今回のバックテストでは、シケモク株戦略は2010年から2026年までの長期でTOPIXを上回りました。
初期資金1000万円は約8600万円となり、CAGRは約14.0%。下落相場で損失を抑える傾向も見られました。
一方で、2019年以降に始めたケースでは、TOPIXに負ける傾向があります。
シケモク株の候補数が減り、長期間評価されない低品質な銘柄の割合が高くなっている可能性もあります。
今回の検証から得られる結論は、「NCAV比率が高い株を無条件で買えばよい」ということではありません。
今後は、次のような改善が必要になりそうです。
- 赤字やキャッシュバーン企業を除外する
- 流動性条件をさらに検証する
- シケモク株になった時期や理由を調べる
- 利確ラインを細かく比較する
- 開始時期を変えた長期テストを行う
- 他のバリュー投資戦略と比較する
シケモク株投資は、現在でも研究する価値のある戦略です。
ただし、過去に有効だった単純な条件を、そのまま現代の市場に当てはめるだけでは不十分かもしれません。
資産価値に加えて、企業の質、現金の減り方、流動性を確認することが、これからのシケモク株投資では重要になりそうです。
※本記事はバックテスト結果を紹介するものであり、特定銘柄の売買や投資成果を保証するものではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。

